俳優の地位武男さん(70)が心不全のため亡くなった。以前、狭心症の病歴があったそうだ。そこで狭心症や心筋梗塞について、お復習いした。
地位さんは、小生と同じ1942年生まれ。余りに早い人生であり、お悔やみ申し上げます。
「地井武男さん死去 70歳心不全」(デイリースポーツオンライン2012.6.29)によれば、
地井さんは約1週間前に都内の病院に検査入院。その後容体が悪化し、2012年6月29日午前7時半ごろ、家族にみとられながら息を引き取ったという。
地井さんは今年1月末、目の不調を訴え検査入院。精密検査の結果、心不全の危険性があることが判明した。
1996年に狭心症を患った地井さんは、今年1月30日に「目が見えにくい」と訴え、都内の病院に入院。精密検査で心臓に疾患が見つかり、療養生活に入った。以後は入退院を繰り返し、テレビ朝日の冠番組「ちい散歩」(関西は放送なし)は、志なかばで5月4日の放送を最後に打ち切りとなった。
下段に引用させていただいたように、隠れ狭心症の症状の新たな知見が出たので、本来の狭心症や虚血性心疾患についてお復習いした。
「
虚血性心疾患、狭心症」
(「
家庭の医学」より引用させていただいたが、治療や受診出来る病院等については原文を参照下さい。)
概説:
虚血性心疾患は、冠動脈の動脈硬化やけいれんによって心筋への血流が不十分となり、虚血が引き起こされた病気の総称で、大きく「狭心症」と「心筋梗塞」に分けられます。
狭心症は、胸痛や胸部圧迫などの狭心症症状を伴い心筋が壊死に陥っていない段階を呼びます。狭心症の症状を伴わず、また心筋が壊死に陥っていない場合は、無痛性心筋虚血と呼んで狭心症とは区別します。
心筋が壊死に陥った場合は、心筋梗塞となります。虚血性心疾患は、病状が急変しうること、胸痛以外にも息切れや上腹部痛が主訴のことがあり、しばしば見落とされること、適切に処置すれば救命しうることなどから、臨床的にも極めて重要な疾患です。
狭心症は労作による症状の出現や病状の安定度などから分類されます。労作によって症状が出現する場合は労作狭心症、安静時にも出現する場合は安静時狭心症といいます。安静時狭心症の中には、冠動脈れん縮による狭心症も含まれますが、冠動脈硬化部のプラークが破綻して血栓が形成されている状態も多くみられます。
狭心症を発作のパターンにより、安定狭心症と不安定狭心症に分類することも臨床的に重要です。
新たに発症した狭心症(一般に3週間以内)や発作の頻度やパターン(持続時間、狭心痛の強さ、ニトロ製剤に対する反応性など)が変化してきた狭心症を不安定狭心症といいます。これは急性心筋梗塞に移行する危険性が高いため、入院治療が必要となります。安静時狭心症は貧血などの全身状態の悪化でも生じます。
症状:
前胸部痛や前胸部の圧迫感が特徴的です。典型的な症状を訴える症例は問診によって診断することが容易ですが、症状は症例によって大きく異なるため、注意深い問診が極めて重要となります。非典型例でも診断できるようになるには、一例ごとに詳しく問診をして、いかに狭心症の症状が多彩かを知らなければなりません。とくに不安定狭心症は生命に関わる重篤な病態であり、入院管理が必要となるなど、治療方針に大きな影響があるので細心の注意を払って問診をする必要があります。
狭心症の問診では、胸痛、胸部圧迫感、絞扼(こうやく)感、息切れなどの症状が、いつから、どのような誘因で、どのくらいの頻度で、胸部のどの部位に、どのくらい持続するか、発作時の冷汗や脂汗の有無、ニトロ製剤に対する反応性、などを聞き出します。一般に狭心症発作は数分間のことが多く、15分以上持続することはまれです。
胸痛や圧迫感の部位は胸骨の裏側が多くみられますが、しばしば喉頭部絞扼感や下顎部痛を生じます。痛みの性質として、重い、しめつけられる、圧迫感などと表現されることが多く、チクチク刺すような痛みは狭心症ではないことが多いです。ときに胸焼け、左肩甲部痛、肩こり、心窩部(しんかぶ)痛、息切れを訴えることもあります。息切れは虚血によって心臓の拡張能障害が起こり、肺うっ血が生じたためと考えられます。これがみられると、胸痛がなくとも心筋虚血は重症のことが多く、痛みは、胸骨の裏側のみのこともありますが、左上肢(とくに尺骨側)、肩、頸、あごなどに放散します。まれに胸骨の右側のこともあります。
労作性狭心症は、寒い日の朝、朝食後、荷物を持って坂道を登るなどの条件で誘発されることが多いのが特徴です。一方、安静時狭心症は、明け方ないし早朝起床直後に多くみられます。不安定狭心症は、新たにはじまった狭心症、発作の頻度やパターン、あるいは症状の程度が悪化した狭心症(労作性から安静時への変化、高頻度の発作回数、より強い胸痛、冷汗を伴うなど)、ニトロ製剤に対する反応性の低下した狭心症、などをいいます。これは冠動脈病変が破綻して血栓が生じたり冠動脈れん縮によることがあり、急性心筋梗塞の前駆症状であることが多くあります。そのため入院治療を必要とします。不安定狭心症は、発作の合間は心電図所見やCKなどの血液検査に異常のないことが多く、問診から診断しなければならないので、注意が必要です。
原因:
原因として最も多いのが冠動脈の動脈硬化があげられます。その他にも大動脈炎症候群による冠動脈入口部の狭窄、川崎病による冠動脈瘤、大動脈解離による閉塞、心房細動による血栓塞栓症なども原因となります。また、冠動脈のけいれん(れん縮:spasmという)によって、一時的に冠動脈に狭窄が生じる狭心症があり、これを冠れん縮性狭心症といいます。このれん縮により心筋梗塞が発症することもあります。
冠動脈硬化の危険因子として、加齢、高血圧、糖尿病、血清脂質異常(高コレステロール、高LDLコレステロール、低HDLコレステロール)、喫煙などがあげられます。例えば血清中のLDLコレステロール値が高いと、血管壁内で酸化LDLとして沈着し、炎症反応を引き起こしたり増悪させます。さらに流血中の単球細胞が内皮細胞に接着して血管内に侵入し、コレステロールエステルを蓄えてマクロファージに変化します。マクロファージは増殖因子や細胞外マトリックス分解酵素を分泌するため、平滑筋細胞の増殖や動脈硬化巣の不安定化を引き起こします。このようなコレステロール学説は動脈硬化の成り立ちを部分的には説明できますが、血中コレステロールが高くない症例でも多数の冠動脈硬化症を発症することは日常経験されることです。このことはコレステロール以外の要因、とくに加齢、高血圧、糖尿病、喫煙などが重要な危険因子であることを示していますが、これらの因子がどのようにして冠動脈硬化を促進するかは不明です。冠動脈危険因子をいくつ有するかは臨床的に重要で、多いほど虚血性心疾患の発症頻度が高まります。したがって予防医学の立場からは危険因子をできるだけ除いて、動脈硬化の進展を予防する必要があります。
「「
隠れ狭心症」を見抜け! 患者の1割に“意外”な症状 関西医大調査で判明」(産経ニュース2012.5.24)によれば、
脚のだるさや倦怠感など一見狭心症とは関係ないと思われる“意外”な症状が、狭心症患者の約1割でみられることが、関西医科大の岩坂壽二教授(循環器内科)らのチームによる研究で分かった。数分間にわたって突発的に起こるのが特徴で、チームは「隠れ狭心症を示すデータ。狭心症の早期発見や治療につなげてほしい」としている。
狭心症は、動脈硬化などによって心臓の冠動脈が狭くなり、心筋が血液不足になる病気で、進行すると心筋梗塞となる。
狭心症ではこれまで、数分間にわたる胸の痛みなどが典型的な症状とされてきた。一方で隠れ狭心症の症状としては、血行不良を原因とする左の肩こりが知られていた。
今回、関西医大付属の滝井病院(大阪府守口市)と枚方病院(同枚方市)が、共同で調査。平成23年3月末までの2年間で、狭心症の治療を受けた572人を対象に、治療前後に症状がどう変わったかをアンケートした。
その結果、全体の11%にあたる61人が、動悸や息切れ、胸の痛みといった典型的な症状はみられなかったものの▽脚のだるさ(24人)▽倦怠感(21人)▽めまい(19人)▽腕のだるさ(11人)-など、一見狭心症とは関係のなさそうな症状があったと答えた(複数回答可)。また、歯の痛みを訴えた人もいた。
これらの症状を訴えた患者のうち、50人は狭心症の治療で症状が治まった。さらに、典型的な症状があった477人の中でも、7割にあたる340人に同様の症状があったという。
チームによると、血流量の低下がだるさなどの症状を誘発すると考えられている。症状が数分から10分で治まるのが特徴で、長時間続く場合は別の病気が疑われるとしている。
〔関連情報〕
◇『
急性心不全の予備知識』