最近、朝日新聞の<患者と生きる>に載った「心房中隔欠損症」(最下段に情報編を引用)は、大人になっての症状や治療についてであったので、生まれてすぐの時はどうだったのか、「
先天性心疾患/家庭の医学」より引用させていただいた。
【
概説】
生まれつきの心臓の構造異常を先天性心疾患と呼びます。生まれつきの心臓病でも、生まれてすぐに症状が現れるわけではありません。症状は病気の重さによって異なり、同じ診断名でも必ずしも同じ症状を示すわけでもありません。ここでは、頻度の高い[1]心房中隔欠損症、[2]心室中隔欠損症、[3]ファロー四徴症について述べることとします。
[1]
心房中隔欠損症
右心房と左心房の間に孔があり、肺から左心房へ戻ってきた酸素がたくさん付いた赤い血液が、孔を通って再び右心房・右心室・肺へ行ってしまう病気です。このため、孔を通った血液(短絡血流と呼ばれます)は、すでに酸素が付いていて肺へ行く必要がないのに無駄に右心室から肺へ行ってしまうので、心臓が無駄働きをさせられている病気です。
[2]
心室中隔欠損症
右心室と左心室の間の壁(中隔と呼ばれます)に孔があり、左心室の酸素の付いた赤い血液が、右心室へ行ってしまう病気です。この結果、心臓は無駄働きをさせられます。心房中隔欠損症とは孔の場所が違うだけのようですが、症状はだいぶ違います。
[3]
ファロー四徴症(TOF)
右心室へ戻ってきた蒼黒い血液が、左心室から駆出される酸素のたくさん付いた赤い血液と一緒に大動脈から全身に駆出される疾患です。蒼黒い血が混じるために、体色は黒っぽくなり、チアノーゼが出現します。このチアノーゼの程度は赤い血と蒼黒い血の混じり具合の割合で決まります。赤い血の量は、肺へ流れる血液の量(肺血流量)が多いほど多くなるので、チアノーゼの程度は、肺血流量が多いほど目立たなくなるといってもよいでしょう。
【
症状】
心房中隔欠損症は学童・成人に至るまで診断されないことも多い先天性心疾患です。幼児期に症状の出ない理由は、孔を通過する短絡血流が徐々に増加していくので、心臓に対する無駄働きの負担が少ないからです。多くの場合、4~6歳ぐらいから長距離の歩行などが苦手になってきます。それでも、運動が苦手の子どもというくらいにしか思われないで、過ごしている場合が多いようです。ですから、診断された時の驚きはとくに大きいようで、なかなか信じられない場合も多いようです。
何もしないで放っておくとどうなるかというと、成人あるいは中年になったときに、心房性の不整脈に悩まされたり、心不全になって日常生活も一人ではできなくなったりします。
同じ名前の疾患ですが、新生児期または幼児期に心エコーで発見された無症状の「心房中隔欠損」は自然閉鎖することが多いので、経過観察のみで問題ありません。これは、胎児期に開いていた卵円孔という孔が、自然に閉まるはずだったのが、閉まらなかっただけのもので、経過観察中にほとんどのものが自然閉鎖しますので、心配する必要はありません。はっきりしないときは、経過をみることになります。
心室中隔欠損は、1カ月健診のときまでには、聴診による大きな心雑音のために気づかれます。小さな心室中隔欠損症では、心雑音は示していますが元気に育ちます。
大きな心室中隔欠損症では、短絡量が多く心臓の無駄働きの程度が大きすぎて、心不全となり、なかなか体重が増えないことになります。この場合は、放っておくと不可逆性の肺高血圧症になってしまうことがあります。
このような肺高血圧症になると、もう手術しても正常には戻らなくなり、手術不可能となり、アイゼンメンゲル症候群と呼ばれることがあります。肺高血圧になると心不全の症状は消えるので、一見良くなったような印象を与えることがありますので、専門医の診断が大切です。
ファロー四徴症は、最初は心雑音で気づかれます。ちょっと聞いたところでは、心室中隔欠損のように思えることもありますが、幼児期からチアノーゼが出現してファロー四徴症と診断されることもあります。
肺血流量が少ないと、赤い血が少ないので、チアノーゼが強くなります。6カ月~1歳くらいから、突然チアノーゼを呈する発作を起こすことが多くなり、無酸素発作(チアノーゼ発作)と呼ばれます。
【
診断】
心エコー・ドプラ検査で確定診断することができます。心電図、胸部X線写真とともに状態を把握しつつ、観察・記録します。
【
標準治療】
[1]心房中隔欠損症
症状である疲れやすさなどは、学童期以前にようやく気づかれるのが普通です。したがって、子どもの運動量が増加する幼稚園前、就学前に手術することがすすめられます。20歳前後までに手術すれば、その後の人生は何もなかったと同様になりますが、この年代以降に手術したときは、不整脈などのなんらかの合併症が一生続く可能性が高いと報告されています。
[2]心室中隔欠損症
孔の大きさと短絡量の多さで治療が異なります。小さな孔で短絡量の少ない場合は、普通の子どもと同じ運動が可能です。ただ、むし歯のばい菌は、しばしば血液中に出現して(菌血症と呼ばれます)、孔の近くに付いて心臓の内側のおでき(感染性心内膜炎と呼ばれます)になることがあり、これは、大変危険な状態です。したがって、心室中隔欠損症では、むし歯にならないように注意しておくことが大切です。むし歯の治療を受けるときは、抗菌薬を前もって服用しておくなどの配慮が必要です。
大きな孔で短絡血流の多いときは、乳児期に心不全を起こし、哺乳力が低下し、体重増加不良が起こります。薬を使った内科的治療を行っても、体重増加が望めないと判断したときは、外科的な治療を行います。この場合、体外循環を用いた開心根治術に耐えられると判断したときは、根治術を行いますが、耐えられないと判断したときには、肺への血流を少なくして肺高血圧を予防し、短絡血流を減少させる目的で肺動脈絞扼術を行うことがあります。これは肺動脈に糸をかけて文字通り絞扼して狭くする手技です。これで肺を保護しておいて、可能になったら根治術を行うわけです。
[3]ファロー四徴症
治療は、最終的には開心根治術です。しかし、かなり大きな手術なので、多くの場合3~4歳まで待って行います。待っている間にチアノーゼが強くなったり、チアノーゼ発作が頻発してきたときは、肺動脈・大動脈短絡術(ブラロック・タウシッヒ手術と呼ばれることがあります)を行います。これは、腕に行く血管を肺動脈につないで、肺血流量を増やす手術です。これにより肺血流量が増えると、結果的に体へ流れる赤い酸素を多く含んだ血流が増えることになるので、チアノーゼは軽くなり、発作も起きにくくなります。
米国では現在、ファロー四徴症でも早期手術をすすめる傾向が強いようです。早期に治してしまったほうが、後々の結果が良いという考え方ですが、わが国では、安全性を重視して体の大きくなるのを待って手術することが多いようです。
【
予後】
心房中隔欠損症は、小児期に手術してしまえば、ほとんど普通の人と同じ人生を過ごすことができます。ごくまれに、心臓の切開線の付近が不整脈の原因となることがありますが、多くの場合治療可能です。
心室中隔欠損症の小さなものは、感染性心内膜炎の予防さえ行われていれば、普通の人と同じ人生を歩みます。開心根治術を行ったものも、ほとんどの場合、普通の人生を歩みます。
ファロー四徴症は、心室中隔欠損と同様の感染性心内膜炎の危険があります。その上、この疾患では肺を経由しない蒼黒い静脈血がそのまま大動脈へ流入するので、静脈血内の血栓が頭部血管へ流れ込んで脳塞栓症を起こすことがあり、けいれんなど思いがけない神経症状を起こすことがあります。この血栓が感染していたときは、脳膿瘍という脳に膿の塊ができてしまうことすらあります。開心根治術を行った後は、ほとんど普通の人と同じ人生を歩むことができますが、肺動脈がとても狭いので、手術しても多少の肺動脈狭窄と閉鎖不全が残存します。この程度が強いときは、右室が拡大して運動能力が普通の人よりも落ちることがあります。これは、術前の心臓の状態によるところが多いようです。
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関連する病気】
□
心雑音(小児) [小児科・小児外科]
□
口唇裂・口蓋裂と顔面裂 [形成外科・美容外科・口腔外科]
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心房中隔欠損症】(情報編)/朝日新聞<患者と生きる>
[6回シリーズの最終回が(情報編)]
心房中隔欠損症は、本来は生まれて間もなく閉じる左右の心房の間の壁が、開いたまま残る生まれつきの病気だ。赤ちゃんの心臓病の1割ほどを占める。
幼いころは症状もあまり出ず、目立った心雑音がないため、見落とされやすい。
丹羽公一郎・聖路加国際病院循環器内科部長は「
最近は、高校までの学校健診で心臓の検査を受けるので、子どものころに見つかるようになってきた」と話す。ただ、聴診やX線検査、心電図検査ですべてのケースを見つけることは今も難しく、
大人になり症状が悪化して初めてわかることが多い。心臓の超音波検査でわかる。
心房の壁に穴があると、本来は全身へ送られるはずの左心房の血液の一部が、右心房に流れ込み、右心室をへて再び肺に入る。常に肺に負荷がかかるため20代、30代と年齢を重ねるうちに、息切れや倦怠感、風邪などの呼吸器感染症にかかりやすくなるなどの症状が出始める。
放置すると悪化し、肺の働きが損なわれていく。肺高血圧のため、二酸化炭素を多く含む右心房の血液が、左心房に流れて「アイゼンメンジャー症候群」になると、治療が難しい。
治療は「早め」が大切だ。
肺に流れる血液の量を調べ、全身に巡る量の1.5倍以上だと、手術の対象になる。
治療法には、外科手術とカテーテル治療がある。
外科治療は胸を開き、心臓を止めて人工心肺装置を使い、穴にあて布をして縫い合わせる。今も多く行われているが、心臓を止めるリスクのある高齢者などには行えず、入院期間が長い、傷が残るなどのデメリットもあった。
カテーテル治療は、円盤が二重に連なった形をした金属の部品を、血管を通して心臓に運び、穴をふさぐ。穴が大きすぎず、周りに「のりしろ」があるなど、一定の条件を満たす人が対象だ。
2006年に公的医療保険の対象になり、行う病院が増えた。日本小児心カテーテル治療学会(JPIC)のウェブサイトに学会認定を受けた44病院が紹介されている。
朝日新聞〈患者を生きる〉「心房中隔欠損症」
(以下の“続く”は、朝日新聞のデジタル版を購読していると見ることができます。)
「
運動すると息苦しくなる」 (2012年05月01日)
なんでこんなにすぐ、疲れるんだろう――。
鹿児島市の看護師、Hさん(42)は4年前、全身のだるさを抱えながら、病院の外来で検査や介助に駆け回っていた。原因が心臓にあることは、この時はまだ知らなかった。
小さいころから、体は丈夫だった。でも走ることは大嫌い。学校の体育で持久走の練習をすると息苦しくなり、人一倍呼吸が荒くなった。(続く)
「
心臓に穴があったなんて」 (2012年05月02日)
「
手術怖いが体力も限界」 (2012年05月03日)
Tさんは、4年前、心臓内を仕切る壁に穴があることを知った。
1日立ち仕事をして帰宅すると、ベッドに倒れ込んでピクリとも動けない。一晩眠っても疲れが取れず、毎日重い体で職場に向かった。病院の階段は手すりにつかまり、腕の力で体を引き上げるようにして上がった。
国立病院機構鹿児島医療センターに入院して、心臓の詳しい検査を受けた。第二循環器科の田上和幸さん(38)が主治医になった。検査の結果、左右の心房を隔てる壁にあいた穴は、直径2センチほどもあることが分かった。心臓が動くたびに、酸素を多く含む左心房の血液が、右心房にも流れ込む。体を巡る血液量の2倍以上が、肺に流れ込む状態だった。(続く)
「
手術以外の方法があった」 (2012年05月04日)
「
階段もすいすいと歩ける」 (2012年05月05日)
Tさん(42)は2009年2月、カテーテル治療の説明を聞くため、岡山大病院を訪ねた。
循環器疾患集中治療部の赤木禎治さん(52)が治療法を説明した。穴の開いた紙を心臓内の壁に見立てて、穴をふさぐ方法を実演した。円盤が二つ重なったようなメッシュ状の金属の部品を、太さ数ミリの管にしまう。その管を穴の向こう側とこちら側で順に引き抜くと、円盤が傘のように順に開いて、穴を挟んで止まった。部品が脱落した例は国内で数件あるが、多くは治療直後に起こるのですぐに対応ができる。入院は4泊5日ほど。
治療は全身麻酔で、X線と、食道に入れた器具からの超音波画像を見ながら進められた。穴は縦2.6センチの楕円形だった。穴の大きさより一回り大きい直径3センチの部品を、足の付け根の血管から心臓へ運ぶ。穴の場所で開いて固定し、終了だった。
夕方、起きあがって驚いた。体が見違えるほど軽く、階段も廊下も、すいすいと歩ける。「あー、普通の人ってこんなに楽なんだ」(続く)
「
成人後 見つかる例多く 」(2012年05月06日)