今朝(11月5日)、テレビのテロップで流れていた万里の長城の遭難事故で、すぐ思い出したのは、以前、山岳会の同僚から万里の長城は冬にアイゼンを利かして行ける所と聞いていたことである。
今回の遭難事故は、「世界遺産・万里の長城グレートウォール・100キロトレッキング(アミューズトラベル企画)」(10月28日から11月5日までの9日間のツアー)の終わりに近い所で発生しているが、11月3日からは暴風雪になったというからたいへんだったようだ。
防寒着の準備はどうだったのか?零下で停滞しているのだから、薄手のセーターやフリースでは十分とはいえない。現地の緯度は青森位で高度は1000m以上にも行くのだから、11月初旬とはいえ、冬山装備が必要である。
ツアーを企画したのは、例のトムラウシで事故を起こした、企画会社。
この事故も、状況により、計画変更することに躊躇してはいけないことを物語っている。「
7月の大雪山系縦走大量遭難で、何が生死を分けたか」
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万里の長城遭難で150人あまりが救助に参加」によれば、中国人ガイドが下山して通報し、張家口市と懐来県は3チーム合計150人の救助隊を組織し、腰の高さまで積もった雪の中で遭難者の捜索に当たったとのことであるが、何かほのぼのとしたものを感じる。
河北省懐来県宣伝部の李景波副部長が「新京報」の取材を受け、日本人観光客の救助の詳細を紹介しました。
3日の夜11時、中国人ガイドが下山して通報した後、通報を受けた懐来県は直ちに警察、消防士、医者など40人あまりで構成された救助隊を出動させ、同時に地元村民にも協力を要請しました。翌日午前、この地域に駐留する20人あまりの軍人が加わり、張家口市と懐来県は3チーム合計150人の救助隊を組織し、腰の高さまで積もった雪の中で遭難者の捜索に当たりました。
4日午前8時ごろ遭難者が発見され、午後4時に救助が完了しました。遭難者が登った長城は正式な観光地ではなく、一番近い村まで10キロメートルほど離れています。山道は歩きにくく、深く積もった雪の中での救助は難航しました。
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万里の長城 河北省張家口 アミューズメントトラベル」より引用
万里の長城の事故現場となった、河北省張家口市は「ちょうかこうし」と読み、同省北西部に位置する市で『北京の北門』とも呼ばれ、北京の北を取り巻く万里の長城の主要な門「大境門」のすぐ外側に位置します。
北京で岩手県くらいの緯度で、河北省張家口市は北京市からさらに北西へ200kmほど入った所。
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“万里の長城”遭難 現地向かう列車内から中継(11/05 11:50)」より引用
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現地の様子」より引用
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万里の長城遭難、観光庁が立ち入りへ 処分には時間」(朝日2012.11.9)より引用
会見に同席したアミューズメントトラベルの社員は、一行は中国人ガイドと添乗員を含む計6人。朝からの霧雨が午後には雪に変わり、午後3時半ごろには大雪に。行程の3分の2を消化していたため、先に進むことにした。夜になり、1人が歩けなくなった。携帯電話は通じず、ガイドが救助を求めて山をおりた。
残った5人は壁を背に並んで座り、救助を待った。午後10時ごろ、歩けなくなった1人が呼吸をしなくなり、添乗員らが心臓マッサージをしたが戻らなかった。残った4人は励まし合い、生い立ちなどについて話しながら助けを待った。
翌朝8時、さらに添乗員が胸まである雪の中を救助を求めて下山。先行したガイドの通報で救助の村人が現場に着いたのは、その1時間後だったという。
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添乗員 昼間の大雪は予想せず出発」(NHK NEWS2012.11.6)
同行した中国の添乗員(25)は「雪は午後か夜に降り出すという天気予報だった」などと述べ、昼間に大雪が降るとは予想せず出発したことを明らかにした。
以下は、「
中国河北省 大雪で日本人遭難」(NHK NEWS2012.11.5,19時55分)より引用させていただいた。
中国の河北省の山間部で、3日、日本人観光客4人を含む5人が大雪で遭難した事故で、行方が分からなかった福岡県のYSさん(76)が死亡したことが確認され、この遭難事故による犠牲者は3人となりました。
一方、救助された日本人女性は、NHKの取材に対し「雪が思ったよりも早く降り始めた」と述べ、天候の急激な変化が遭難につながったことをうかがわせています。
北京市に近い河北省張家口市の山間部で、3日、万里の長城などを歩くツアーに参加していた日本人観光客4人を含む5人が、大雪で動けなくなって遭難しました。
このうち2人は救助されましたが、東京都のOYさん(62)と、埼玉県のWKさん(68)の女性2人が死亡しました。
さらに、行方不明となっていた福岡県のYSさん(76)について、北京の日本大使館は、5日夕方、「遺体が確認されたと中国の現地当局から連絡があった」と発表し、遭難事故の犠牲者は3人となりました。
また、北京の空港には、5日昼すぎ、今回のツアーを企画した東京・千代田区の旅行会社「アミューズトラベル」の板井克己社長が到着し、記者団の問いかけに対して、「ご迷惑をおかけしてすみません」と述べました。
板井社長らは、日本大使館の担当者と打ち合わせをし、6日に現地入りする予定だということです。
■“本当にすごい雪で大変つらかった”
中国の河北省の山間部で、登山に訪れていた日本人観光客が大雪で遭難した事故で、救助された富山県射水市のWMさん(59)は、5日午後、収容先の診療所でNHKの取材に答えました。
渡辺さんは、遭難した当時の状態について、「もともとは、もっと早く下山する予定でしたが、雪が思ったよりも早く降り始めて、私たち日本人は歩くのが遅くなっていきました。このため、ガイドが先に1人で降りて、私たち4人は上で待つことになりました。雪が激しく、万里の長城を壁にして、雪や風を防いで待ちました。本当にすごい雪で、大変つらかったです」と当時の状況を語りました。
さらにWMさんは、「みんなと一緒に帰りたかった。私1人だけが日本に帰るとは思っていませんでした」と話していました。
■日本人の団体客は多く訪れない所
日本人観光客らが遭難したとみられる現場は、河北省と北京市の境の山間部にある瑞雲観(ずいうんかん)という所で、北京市内の中心部から北西におよそ60キロ離れています。
また、観光地として有名な万里の長城の八達嶺(はったつれい)からは、南西に20キロほど離れており、日本人の団体観光客もそれほど多くは訪れない所だとされています。
■現場付近 気温が1日で15度近く下がる
遭難事故が起きた中国北部の現場付近の気象状況について、気象庁が調べたところ、強い寒気の影響で気温が急激に下がり、3日から4日の昼ごろまでに15度近く下がって、最低気温が氷点下4度近くに達していたことが分かりました。
気象庁によりますと、中国北部では、3日から4日にかけて、低気圧が通過したあと、上空およそ1500メートル付近に、この時期としては強い氷点下3度の寒気が流れ込んでいました。
現場に近い河北省懐来県の標高570メートル付近の観測データでは、3日の最高気温が10度7分、4日昼ごろまでの最低気温が氷点下3度9分と、15度近く下がったうえ、4日は雪が降り、積雪は9センチを観測しました。
また、風は、気象庁の解析によりますと、3日の夜には風速およそ5メートルだったのが、4日の朝には風速およそ20メートルと、一晩で一気に非常に強い風になり、さらに4日夜には風速およそ15メートルと、その後も風が強い状態が続いたということです。
気象庁は、「強い寒気を伴った低気圧が4日にかけて中国北部を通過するということは予想されていた。今回は低気圧の動きが非常に遅く、寒気や強い風の影響が長時間続いたと考えられる」と話しています。
■万里の長城など巡るツアーに参加
4人は、東京・千代田区の旅行会社「アミューズトラベル」が企画したツアーに参加していました。
会社では5日午前、総務部の板垣純一課長が記者会見を行い、死亡、あるいは行方不明の3人について、埼玉県のWKさん(68)、東京都のOYさん(62)、福岡県のYSさん(76)であることを明らかにしました。
もう1人の参加者のWMさん(59)は無事だということです。
会社では、板井克己社長や社員らが、対策本部を立ち上げるために、5日朝、現地に向かったということです。
4人が参加していたのは、「世界遺産・万里の長城グレートウォール・100キロトレッキング」という、先月28日から今月5日までの9日間のツアーで、北京の郊外から長城の遺跡までおよそ100キロを歩く計画になっていました。
ツアーには、4人の日本人客以外に、中国人の添乗員1人とガイド1人が同行しており、遭難事故があった今月3日は、およそ5時間かけて万里の長城を14キロ歩く予定でしたが、午後から天候が急変し、身動きができなくなったということです。
会社では、このシーズンの北京市北部での平均的な気温を基に、薄手のセーターやフリースなどを参加者に用意させていたということですが、雪山に対応できるような装備は求めていなかったということです。
■旅行会社、北海道・大雪山系で遭難事故のツアーも企画
3年前に北海道の大雪山系のトムラウシ山で、ツアーガイドを含めた登山者8人が低体温症で死亡する遭難事故が起きたツアーも、この会社の企画で、会社は観光庁から51日間の業務停止命令を受けていました。
板垣課長は「トムラウシ山で起きた事故を受けて、社員研修を行うなどしてきたが、このような事態になり申し訳なく、深くおわびします。安全面の事前の想定が十分だったのかどうか、今後詳しく調べたい」と話していました。
■“3年前の事故の教訓生かされず”
ツアーを企画した東京・千代田区の「アミューズトラベル」の説明によりますと、「万里の長城」を歩くツアーは今回初めて企画したものでしたが、日程やコースなどの計画は、地元の旅行会社からの情報などを基に決定し、会社としてコースなどの事前の下見は行わなかったということです。
また、今回のツアーには現地のガイドがついていましたが、ガイドの人選は、去年入社した中国国籍の添乗員や現地の旅行会社に任せ、会社としてガイドの名前や経験などは把握していなかったということです。
今回の事故について、日本山岳ガイド協会の理事長で、海外の山岳ツアーの旅行会社を経営している磯野剛太さんは、「まれな大雪だったとはいえ、どうして3人が死亡するような結果になったのか、非常に疑問だ。初めて企画するツアーでは通常より手厚い態勢で臨むのが普通であり、ガイドの名前も能力も分からないというのは考えられない。ツアーの態勢に問題があった可能性がある」と話しています。
アミューズトラベルは、3年前、北海道のトムラウシ山でガイドを含む8人が死亡した登山ツアーを企画した会社で、この事故のあと、磯野さんは、業界として事故原因の調査に当たりました。
今回の事故の原因について、磯野さんは、「冷たい雨が雪に変わるなかで行動を続けたため、低体温症になって衰弱した可能性が考えられる。そうなる前になぜ引き返す判断ができなかったのか、ガイドや添乗員の判断が問われることになる。トムラウシ山の遭難事故のあと、アミューズトラベルは会社として再発防止に取り組んでいると聞いていたが、今回、判断が現場任せになっていたのを見ると、教訓が生かされておらず、取り組みが不十分だったと言わざるをえない」と指摘しています。