大学の同窓会(
講演会)で、Tさん(元S大教授)に48年振りにお会いでき、旧交を温めた。
Tさんからのメールによれば、
(へこんでいる)あごについては、3年前入れ歯の具合が悪くなり、町の歯医者に行って直したのですが傷の直りがおかしいと昭和大学に行きました。そこでは良性の腫瘍で骨髄炎といわれました。その後東京医科歯科大学で見てもらったところ、初めは良性といいましたが手術直前にあごの骨の中にガンがあり、1/3程度骨が溶けているとのことでした。珍しい例だそうで生理学の先生が2人見に来ました。(がんを含むあごの切断)手術によってガンは除去されたのでその後の治療や薬は全くありません。
転移の検査のため毎月1回病院に通って3ヶ月に1回CT検査をしています。あごを切断したので神経も切断されて麻痺しています。これが1番つらいところです。食事はおかゆです。かめないので飲み込むだけです。
そこで、「家庭の医学」等より、(1)「
顎骨に発生する主な腫瘍」、(2)「
顎骨骨髄炎」について調べた。ともあれ、Tさんの普段の生活はたいへんなようだ。
加齢による免疫力の低下や殺菌作用のある唾液の減少、補綴物(義歯等)の不具合、また、特に唾液が少なくなる睡眠中の口の中の清潔には普段から気をつけておきたい。
(1)
顎骨に発生する主な腫瘍としては、良性腫瘍では顎骨内に生じるエナメル上皮腫があり、悪性腫瘍では歯肉に生じる歯肉がんがある。
①
顎骨腫瘍(エナメル上皮腫を含む)
顎骨内に発生する良性の歯原性腫瘍です。口腔腫瘍の約10%を占め、歯原性腫瘍のなかでは最も頻度が高い腫瘍です。性差はなく、20〜30歳代で診断されることが多く、下顎骨の大臼歯部から下顎枝部に好発します。 原因は不明です。
〔症状の現れ方〕
初期には無症状ですが、増大すると顎骨の膨隆を来します。腫瘍が増大して顎骨の吸収が進むと、羊皮紙様感(ペコペコした感じ)や波動(波のような動き)を触れます。また、歯の傾斜、転位、埋伏が認められます。
〔検査と診断〕
診断はX線、CTなどの画像診断と、生検(病変の一部を採取して顕微鏡で調べること)により確定されます。X線では境界がはっきりした単房性、多房性ならびに蜂の巣状の透過像がみられます。鑑別すべき疾患は、顎骨内に生じるその他の良性腫瘍や嚢胞で、画像診断と生検により鑑別されます。
〔治療の方法〕
単房性のものは、患部の摘出に加えて周囲の骨を取り除きます。小児では開窓療法(窓を開けて減圧する)を行い、腫瘍が小さくなってから摘出を行います。多房性のものでは、顎骨切除(上顎:上顎部分切除、上顎全摘出、下顎:下顎骨辺縁切除、下顎骨区域切除、下顎骨半側切除)を行います。
エナメル上皮腫は、良性とはいえ局所浸潤性に増殖するため、時に再発します。繰り返し再発することによって転移したり、悪性化することもあると指摘されています。
〔顎骨腫瘍(エナメル上皮腫を含む)に気づいたらどうする〕
顎骨の無痛性の腫脹や膨隆など、疑わしい病変に気づいたら、ただちに口腔外科などの専門医を受診して、精密検査、治療を受ける必要があります。
②
歯肉(しにく)がん
歯肉がんは、上下顎の歯肉および歯槽粘膜に発生するがんで、口腔がんの約15%を占めます。歯肉がんの3分の2は下顎にみられ、また臼歯部に好発します。男性に多く、50歳以上の中高年齢者に多く発症します。組織学的には、そのほとんどが扁平上皮がんです。
〔原因は何か〕
原因は不明ですが、誘因としては喫煙、飲酒、むし歯および不適合補綴物などがあげられています。また、白板症などの前がん病変との関係も重要視されています。
〔症状の現れ方〕
初期には無症状に経過します。腫瘍が増大するにつれ、歯肉の腫脹、潰瘍、疼痛、歯の動揺・脱落などを来し、出血しやすくなります。腫瘍が外側へ進展すると顔面腫脹が、後方へ進展すると開口障害が生じます。顎骨内に深く浸潤すると、歯痛や三叉神経痛のような疼痛あるいは知覚鈍麻が現れます。さらには病的骨折を来すこともあります。
頸部リンパ節への転移は25%に認められ、下顎歯肉がんに多くみられます。リンパ節転移は顎下リンパ節や上内頸静脈リンパ節の腫脹として触れます。
〔検査と診断〕
確定診断のためには生検(病変の一部を採取して顕微鏡で調べる)を行います。顎骨浸潤の有無と程度が治療法を左右するため、X線、CT、MRI、骨シンチグラフィなどの画像診断が重要です。
鑑別すべき疾患とその方法は、以下のとおりです。外傷性潰瘍では原因を除去すれば、2週間後には潰瘍は縮小あるいは消失します。アフタ性口内炎では疼痛があり、また症状に改善の兆候がみられます。乳頭腫や白板症では骨破壊はありません。また、歯周炎では骨の吸収が歯の周囲のみに限られ、骨髄炎では骨の破壊像はがんと酷似することがありますが、症状の消長(よくなったり悪くなったりする)が認められます。
〔治療の方法〕
がんの進行状況に応じた顎骨切除(上顎:上顎部分切除、上顎亜全摘出、上顎全摘出、下顎:下顎骨辺縁切除、下顎骨区域切除、下顎骨半側切除、下顎骨亜全摘出)を行います。術前に放射線治療や化学療法を行うこともあります。頸部リンパ節への転移が認められる症例では、頸部郭清術(リンパ節を清掃する手術)も併せて行います。
がん切除後の顎骨欠損に対しては、下顎では骨移植あるいはチタンプレートによる下顎の再建を同時に行います。その後、インプラントなどにより咬合再建を図ります。上顎でも骨移植を行うことはありますが、多くは顎補綴で対応します。また、頬部や口底などの広範囲切除例には皮弁(移植用の皮膚)による再建を行います。
5年生存率は約70%と比較的良好ですが、リンパ節への転移例では予後は不良となります。
〔顎骨腫瘍(エナメル上皮腫を含む)に気づいたらどうする〕
前述した疑わしい病変に気づいたら、ただちに口腔外科などの専門医を受診して、検査や治療を受ける必要があります。また日ごろから歯みがき時の異常出血などに気をつけておくと、早期発見につながります。
(2)
顎骨骨髄炎(がっこつこつずいえん):
顎骨骨髄炎はあごの骨の内部にある「骨髄」と呼ばれる部分が虫歯や歯周病菌によって化膿、炎症を起こすことで起こり、必ず外部から骨に通じる細菌の感染経路があるという。
虫歯の痛みが顎に広がったような激痛が、顎骨骨髄炎の急性時の特徴。あごの骨の内部にある「骨髄」と呼ばれる部分が虫歯や歯周病菌によって化膿、炎症を起こすことで起こる。特に強い痛みになりやすいのは急性の顎骨骨髄炎で、主に感染が下あごに起きた場合に見られる。
普通、あごの骨は歯茎や筋肉などに覆われているため、いきなり最近に感染して化膿することはない。
歯は頭の部分(歯冠)が口の中に露出し、歯茎を貫通した状態で根の部分(歯根)が骨に繋がっているため感染経路になりやすい。顎骨骨髄炎は、必ず外部から骨に通じる細菌の感染経路がある。但し虫歯や歯周病を放置しても必ず顎骨骨髄炎になるわけではない。
さらに一度なってしまうと痛みが取れ落ち着くまでに時間がかかることが多く、歯の痛みの中では重症度が高いのが特徴です。
顎骨骨髄炎の主な急性症状:
・
強い痛みが起きる
歯の痛みや歯周病の症状が何日か続く。歯やあごに虫歯より強い痛みが起き、歯茎などにも痛みが広がる。
・
数本同時に痛みが起きる
原因の歯を特定しやすい虫歯の痛みに対し、顎骨骨髄炎の場合は原因となる歯の特定が困難なほど痛みが広がることがある。
・
数本同時に歯がぐらつく
それまで歯周病トラブルを経験していなくても、激痛とともに歯が次々にぐらつくことがある。
・
歯茎が腫れて膿が出る
歯茎が充血して赤くなり、内側(舌寄り)と外側(頬寄り)の両方が腫れて膨らむ。それまで歯周病の気配が全くないのに、急に重度の歯周病のように腫れたり膿が出る。
・
熱が出る
38~40度程度の発熱を伴うことがある
その他にも普段から強い歯ぎしりがある場合、ある日突然顎骨骨髄炎を引き起こすケースをときどき見かけるという。
顎骨骨髄炎の治療:
普通の虫歯は、歯の神経を取り除くことで比較的簡単に痛みが収まりますが、顎骨骨髄炎のように炎症が骨髄にまで広がってしまっている場合は、痛みや腫れをすぐに取るのは簡単ではない。特に急性症状では困難です。
ただの虫歯より悪化している状況なので、抗生物質、消炎鎮痛剤などを利用しても症状が安定するまで数日~1週間以上かかることがあります。基本的には痛みがあるうちは安静にしておくこと。その後歯の神経を取り除いたり、歯を抜歯する治療が行なわれるのが一般的です。
確定診断が難しい顎骨骨髄炎:
しかし実際には顎骨骨髄炎だとすぐに判断がつかないことも少なくない。痛みや炎症の広がりをレントゲンで確認しようとしても、痛みの強い時ほどレントゲンに変化が見えないという問題がある。
そのため、
原因が普通の虫歯や歯周病なのか顎骨骨髄炎なのかを区別することが難しい場合も多く、歯随炎を疑って歯の神経を取り除いたり、歯周病を疑って歯の抜歯を行なったり、治療後に痛みがなかなか引かなくて初めて顎骨骨髄炎を疑うというケースも考えられる。
〔参考情報〕
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唾液の抗菌作用:
口腔内には数多くの細菌が存在している。中には病原細菌も無数に含まれている。容易に侵入されては体にダメージが生じるが、
唾液には抗菌作用を持つ物質(ラクトフェリン、リゾチームなど)により細菌の増加を抑えることが出来る。しかし、加齢による唾液の減少や睡眠中の唾液の減少には気をつけたい。
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年齢と免疫力