横須賀海軍港は、先の第2次世界大戦の際に、大型艦向けのドッグが整っているということで、米軍は戦争終了後に接収して使用しようという意図で、空爆の対象から外していた・・という話を知人のKさんより説明いただきました。
そういう状況から横須賀海軍港は戦後米軍の基地となり、今日に至っています。その流れで米軍横須賀基地には航空母艦キティホークの母港の役割が課され、その後継母艦としての原子力空母「ジョージ・ワシントン」が横須賀基地を母港にするということになりました。
米軍は地元の方々に理解を深めてもらうという目的でその原子力空母「ジョージ・ワシントン」を公開することにし(一般市民へ原子力空母の公開は世界初)、昨年12月6日(土)を公開日としました。私は艦載機の発艦と着艦の凄さの現場をぜひこの目で見ておきたいという想いもあり、後学のためという気持ちも込めて見物してきました(添付1、写真1)。
母艦の一番上のフロアーである甲板は、発艦、着艦のためのスペースで、その下部が艦載機の収納庫(+補修エリア)になっていて、その間は4基の艦載機の昇降エレベータでつながれています。この公開日向けには、私たち見物人は、まずブリッジで収納庫に歩いて上り、そこからこの昇降エレベータ(艦載機2機を同時に運べる大きさ)に乗せられ、甲板に昇ります。
甲板に出て、艦載機が見当たらなく、さすが公開といっても艦載機はどこか別の場所に避難させておいたのかと想いました。後で知人より説明していただき、空母が母港にいる時は、艦載機(全部で76機搭載可能)は、すべて相模原に待機(もちろん訓練も)し、空母が母港を出て太平洋沖で全速航行できるようになると、そこで合流するものと理解できました。
甲板上に艦載機があれば甲板も込み合うのでしょうが、がらんとした甲板はまるで運動場のような広さに感じました(写真5)。それでも発艦、着艦もしなければならないとすると、大きく見えた甲板の長さが330メートルと説明役の米兵の方に教えてもらってみますと、逆にずいぶんと短い滑走路だと想わずにいられませんでした。
普通の飛行場であればジェット機の離着陸のための滑走路の長さは、2000メートル位ですが、空母の場合は、発艦向けに約100メートル、着艦向けに約200メートルしか許されていないことを知りました(写真5)。母艦は戦場に赴くものであり、発艦と着艦が同時にできるようになっているということで、甲板をシェアーして使うことになっていることも理解できました。
たった100メートルで飛び上がれるための特別な仕組みがカタパルトと呼ばれる設備であり(写真4)、ジェット戦闘機を2秒間で時速300キロメートルまで加速させる推進システムです。このカタパルト( catapult )とは、古代や中世の投石機、石弓から発した言葉で、まさに戦闘機を空に放り投げる役割をしています(添付2、4)。
現代の航空母艦では第二次世界大戦後にイギリス海軍で考案され、アメリカ海軍において実用化された蒸気カタパルトが主流であるそうです。蒸気カタパルトは推進機関のボイラーからの高圧水蒸気を圧力タンクに貯めておき、航空機の発進時に一度にシリンダー内に導いて、その圧力で内部のピストンを動かすという仕組みになっています(添付2)。
ピストンはシャトルと一体であり、フライト・デッキ上の溝に出ているシャトル頭部に航空機の前脚部をつなぐことで、強力な加速力を伝え、100メートルの助走距離でジェット戦闘機を発艦させることができるようになっています(添付2)。
中国は、「大国」の象徴として、悲願であった空母を建造するという報道を最近行いましたが、世界からは、技術的に開発が困難なカタパルトを成功させることができるかどうかが鍵と見られているようです。
発艦の際には当然ジェットエンジンを吹かしていますので、そのジェット気流から他の戦闘機を守るために、ジェット・プラストディフレクターという斜めのボードが設置されています(写真3)。
着艦の際には、全速力で走行している空母の艦尾から着艦し、直径6cm位のアレスティング・ワイヤー(写真6)をフックで引っかけて急停止するというシステムです(添付3、4、5)。猛烈なスピードで引っかけられたワイヤーが、戦闘機のフックから外されるとビョンビョンと空中を暴れまくり、甲板にたたきつけられるそうで、そのたたきつけられた生々しい傷痕も見られました(写真8)。
また、着艦機の車輪(後輪)が最初に甲板に接触するところも、その衝撃の傷痕(写真7)があり、まさにパイロットの死闘を感じさせるものでした(添付5)。
前述しましたように、着艦用に4本のアレスティング・ワイヤーが用意され、4本目のワイヤーを超えて着艦した場合は、すぐにタッチ・アンド・ゴーで飛び上がらなくてはいけませんが、戦闘でそもそも旗艦が無理になった戦闘機の着艦向けに、ネットを拡げてネットでキャッチするという緊急用のシステム(添付9)まで見せてもらうことができました。
ジョージ・ワシントンは、原子力空母ということでどの位の出力の原子炉を積載しているのか興味があり、調べてみたところ、2基の原子炉で90万KW(熱出力)、電気出力に換算すると30万KWということでした(添付6)。この原子炉の運転は商業炉の運転とは大きく異なり、瞬時にフルパワーが求められたりするもので、炉心制御がなななか大変そうなものと思いました。
2009年1月12日(日)
MM
添付1
公開日のジョージ・ワシントンの艦上で撮影した発艦、着艦関連の写真(MM撮影)
写真1:
米軍横須賀基地に繋留の原子力空母「ジョージ・ワシントン」
写真2:
発艦を模擬した艦載機
写真3:
ジェット・プラストディフレクター
写真4:
発艦のためのカタパルト
写真5:
着艦時の甲板滑走路
写真6:
アレスティング・ワイヤー
写真7:
着艦時の甲板上のタイヤ衝撃
写真8:
フックを外されたワイヤー
写真9:
着艦前にトラブルを起こした艦載機を捕獲するためのネット支柱(緊急時に立ててネットを張る)
フックをワイヤーに引っかけられないような機体状況の戦闘機の着艦をネットを張ってキャッチする(機体は大きなダメージを受ける)
添付2
カタパルト出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
カタパルト (aircraft catapult) は、艦艇(主に航空母艦)から航空機を射出するための機械である。射出機(しゃしゅつき)とも呼ばれる。火薬式、油圧式、空気式、蒸気式のものがある。航空機が飛び立つための充分な長さの飛行甲板を持たない場合などにカタパルトにより射出し、離陸速度を確保した。
大日本帝国海軍では、航空機の連続発射が可能なカタパルトの開発に失敗したため、水上艦艇には連続発射には不向きな火薬式のものが主に装備された。そのためカタパルトの装備は戦艦・巡洋艦など少数の搭載機しかない艦に限られ、航空母艦(空母)ではカタパルトは全く装備されなかった。またカタパルト未搭載の空母は、搭載機の離艦時は風上に向かって高速で航行する必要があり、そのため戦艦並みの大型空母であっても巡洋艦並みかそれ以上の高速性能が求められ、建造と運用上の制約となった。航空戦艦の伊勢・日向が空母として実用にならなかったのも、火薬式のカタパルトしか搭載できなかった事が原因のひとつである。
一方アメリカ海軍は、連続使用が可能な油圧式カタパルトを実用化し、空母に搭載している。カタパルト未搭載の空母に比べて、迅速かつ大量の発艦が可能であった。ただし現在のカタパルトに比べれば限界はあり、正規空母において全ての搭載機をカタパルトで射出する事は不可能であったが、それでもカタパルト未搭載の日本海軍に比べて、運用上の大きな利点となった。また小型・低速の空母であってもカタパルトを搭載すれば十分実用になるというのも、大きな利点であり、軽空母・護衛空母の大量建造を可能にし、戦局に大きく寄与した。
現代の航空母艦では第二次世界大戦後にイギリス海軍で考案され、アメリカ海軍において実用化された蒸気カタパルトが主流である。蒸気カタパルトは推進機関のボイラーからの高圧水蒸気を圧力タンクに貯めておき、航空機の発進時に一度にシリンダー内に導いて、その圧力で内部のピストンを動かす。ピストンはシャトルと一体であり、フライト・デッキ上の溝に出ているシャトル頭部に航空機の前脚部をつなぐことで、強力な加速力を伝える。カタパルト・シリンダーの断面はアルファベットの"C"の形をしていて一部に隙間があり、この隙間を通じてピストンとシャトルが接続されている。シリンダーの隙間は、蒸気の漏れを出来る限り防ぐために隙間の両側からゴム製シーリングが塞いでおり、ピストンとシャトルの接続部分だけがシーリングを押しのけている。ピストンとシャトルがシリンダーを走行するときはシーリングを押しのけ擦れ合いながら移動するが、密閉が完全ではないためにカタパルトの使用時には蒸気が漏れているのがわかる。
蒸気カタパルトは、油圧式より高速で動作でき、より重い航空機も運用できるという利点があるが、配管が複雑になるという欠点がある。
カタパルトの実用化初期には、それを利用する航空機に専用の牽引装置が備わっていなかったため、カタパルトのシャトルと航空機の前脚部を連結する「ブライドル」「ブライドル・ワイヤー」と呼ばれる装具が使用されていた。ごく初期にはブライドルは航空機の飛行と共に海面へと落下することで投棄される使い捨てであったが、やがてこの無駄を避けるためにカタパルトの前方フライト・デッキの端から突き出す形の「ブライドル・レトリーバー」と呼ばれるブライドル回収用の網が取り付けられた。2007年の現在ではほとんど全てのカタパルトを利用する航空機には、ブライドルに相当する専用のフックが前脚部に備わっているので、ブライドルとブライドル・レトリーバーは姿を消しつつある。
添付3
原子力空母ジョージ・ワシントンに乗ってきた!/日本人初単独取材/芦川淳
(M記:ジョージ・ワシントンの場合は、着艦時には4本のアレスティング・ワイヤーを張っておき、それを着艦機がフックに引っかけて止まることになる。この写真では3本のワイヤーが見える。2本目のワイヤーに引っかけるのが良いとされている。4本とも通り越してしまった場合には、タッチ&ゴーですぐに飛びあがらないといけない。)
添付4
空母の導入・発艦・着艦
空母への着艦
発艦よりも着艦ははるかにむずかしい。最初のうちはビギナーズラックで1回でうまく着艦できたりすることもある。だが、それは単なるまぐれである。何度もやってみればわかるが、いつもきちんと着艦できるようになるのは、きびしい訓練が必要であることは、他の技能と同じだ。空母の後方に回り込み、高度3000ftくらいから徐々にスロットルをしぼりながら、高度を少しずつ落としていく。甲板を正面にすえたら、ギアダウン。フラップ、着艦フック(Tailhookのスイッチをクリック)を下げる。空母の甲板左に見えるミートボールという照明に気をつけながら、スロットルをしぼることで高度を落としていく。このとき、機体は水平に保ったままのほうがいいとおもう。最終的には甲板に失速する感じで着艦するのがいい。高度が低すぎるとおもったら、少しスロットルを開けて速度を150ktsくらいを保つようにする。甲板が近づいてくると、いきなり突っ込みたくなるが、着艦フックがひっかかればいいのだから、少し機首を上げたような状態で、甲板に向かうようにするといい。これは、言葉ではうまく伝えられない。何度も練習しているうちに、感覚がわかってくる。わたしは、甲板右に見える艦橋のレーダー類などを目安にしている。これは、各自のやりようであろう。
無事、着艦するとフックがかかるため、一気に減速。急激に止まる。そして、着艦フックが自動的に収納される。あとは、再度訓練にはげむのもいいかもしれない。
添付5
空母への着艦
「制御された墜落」。空母への着艦はそう呼ばれています。着艦は海軍パイロットにとっても非常に難しいもので、休暇が終わり、空母が出港する前に地上の基地で何度も訓練をやり、試験に合格しなけばなりません。もちろん夜間もやります。厚木基地で騒音問題になるのはこのNLP(夜間連続離着陸訓練)です。
空母自体は巨大ですが、滑走路と見た場合、とても狭く短いものです。200mほどしかないでしょう。しかも空母は20ノット(36km/h)くらいで走っており、それを斜めから着艦しなければなりません。空母には同じ航空隊のパイロットが数名いて無線で指示します。また、甲板左には「ミートボール」と呼ばれる照明があり、その照明で着艦軌道に乗っているのか分かりようになっています。
飛行甲板に3本のワイヤーが張られています。このどれかに機体後尾のフックを引っ掛けます。速度は200km/hくらいと聞きます。
海軍のパイロット(英語ではエビエーターという)は、発艦でふっ飛ばされて離艦、戦場に向かい、敵機と空中戦をやったり、目標を爆撃したりして、極度の緊張を強いられた後に、今度は着艦という神業をやらなければなりません。大変な商売ですね。
添付6
東京湾に軍事用海上原子炉
2008年03月04日
いよいよ原子力空母ジョージ・ワシントンが東京湾にやってくる。横須賀は世界で唯一の米原子力空母の海外母港になる。
2005/12/26小泉首相、官邸を訪れた自民党横須賀市議団に対して「原子力空母の受け入れに地元として理解してほしい」「基地も原子力空母もみんな反対だ。でも理解してもらうしかない」と述べた。
2005/12/02 アメリカ海軍、キティホークの後継艦に原子力空母ジョージ=ワシントンを2008年に配備すると発表。
2005/11/19 新聞各紙、ロイター通信の記事を報道。「アメリカ海軍は、キティーホークの後継艦は原子力空母ジョージ=ワシントンを配備することを決めた」。
2005/10/28 町村外務大臣、細田官房長官、大野防衛庁長官ら、定例会見で受け入れを表明。
シーファー駐日米大使、「2008年に横須賀に原子力空母を配備する」と発表する。
2005/02/10 クラーク海軍作戦部長、議会証言で2008年か09年のキティホーク退役後には原子力空母を配備する方針を事実上、表明
1984/12月 原子力空母「カールビンソン」が横須賀に初寄港。
1966/5月 横須賀基地に原子力潜水艦が初寄港。
米海軍は2日、神奈川県の横須賀基地を母港とし、2008年に退役する通常型空母キティホークの後継に、ニミッツ級原子力空母ジョージ・ワシントンを配備すると正式発表しました。日本へ初の原子力空母配備計画。
海軍は発表で、ジョージ・ワシントンの横須賀配備について「前進配備の海軍部隊に配属した古い艦船を、より新しく能力のある艦船に代えるもの」であり、「西太平洋における予想のつかない安全保障環境を考慮」したものだと指摘。また、空母が交代しても、艦載機部隊(第五空母航空団)の前進配備とその構成には変化はないと説明しています。
ジョージ・ワシントンは1992年7月に就役。艦載機は80機以上。これまで地中海、ペルシャ湾に出撃し、イラク戦争にも参加しています。現在、バージニア州ノーフォークを母港とし、横須賀への前進配備に備えて整備中です。
原子炉二基を搭載。排水量約97,000トン、全長332.85メートルで、いずれもキティホークを上回ります。在日米海軍のケリー司令官は、ニミッツ級原子力空母について「通常型空母よりもはるかに能力が高い」「通常型空母の少なくとも2倍の期間、危機対処・戦闘作戦にあたることができる」と述べています。
▼原子力空母ジョージ・ワシントン ニミッツ級(全長332m)二基の原子炉が燃やす核燃料を動力として航行する空母。熱出力は、2基の出力90万kw原子炉(発電用炉に換算すると約30万kw・福井美浜原発1号炉に相当)に匹敵します。
通常型空母のように燃料を貯蔵する必要がないため、艦載機のための燃料搭載量が二倍以上に増え、艦載機が使用する兵器の貯蔵スペースも広くなっています。
米軍は原子力空母は、通常型に比べてより高い戦闘力をもつと説明している。重油で運行する空母キティホークの場合、日本からペルシャ湾に向かう運航中、4日ごとに燃料補給が必要だ。しかし原子力空母なら補給がいらない。燃料分78000トンのかわりに、1.5倍の艦載機燃料と、1.8倍のミサイル・爆弾を積載することができる。戦闘作戦も長期間遂行できる。