極寒の中、このように救助船の到着を待つ乗客等が両翼の上に大勢いて、全員がよく助かったと思う。
15日、極寒のハドソン川に不時着したUSエアウェイズ機の両翼の上で、救助船の到着を待つ乗客たち
=AP
<不時着という日本語の文字、ハドソン川の英雄とポトマック川の英雄>
1月15日(木)に厳寒のニューヨークのハドソン川に飛行機を着水させて乗客・乗員の全員が無事救出されたという明るいニュースがありました。その冷静沈着な行動と責任感あふれる行動から機長は「ハドソン川の英雄」になったと紹介されました(添付9)。
そのニュースを最初に知ったのは、16日(金)の出勤前のNHKテレビでの朝のニュースでした。凄そうだなと感じてそのニュースを見ていましたが、字幕で「不時着」という文字を見て、画面に映し出されていた映像と、「時」という概念の不一致感に悩まされました。
何としてその不一致感を拭いたいという気持ちで、「不時着」のいう文字に潜んでいる「時」の秘密を探ることにしました。
まず、「不時着」を素直に辞書でしらべますと、“航空機が事故などのため予定外の所に着陸すること”(添付1)と説明されていました。これでは秘密の解き明かしにはなりません。そこで、より「論理的」な方法として、外国語でどのように表現されているかを見てみようと想いたち、
英語の表現では、crash landing 、emergency landing 、forced landing (添付2)となっていました。中国語の表現では、_急降落(添付3)という表現が見出されました。これらの表現は、「時間」、「時」に関する概念はなく、まさに画面に映し出されていた映像ともピッタリ一致した雰囲気を持っていると感じられ、納得できます。
そこで、航空の世界では、この「不時着」という用語がどのように定義、説明されているかを調べてみることにしました。ラッキーなことに、「航空雑用辞典(航空用語辞典)」という航空のことなら何でも載っていそうな辞書に行きつくことができ、さっそく「不時着」という検索をかけてみました。
何とびっくりしたことに、その辞書には、「不時着」という用語はリストアップされておらず、「予防着陸」の項に、“・・・それ以外の場所に降りた場合はただの『不時着』であり、天と地ほども意味が違う・・・”との説明の中で唯一採用されているだけで(添付4)、あたかも、“「不時着」なる言葉は私たちの世界とは無縁な言葉だ・・”と主張しているがごとくに感じられました。
ここまで来て、「不時着」を調べるという流れでは埒があかないと想い、特に時間の概念を暗に匂わしている、一般用語としての、「不時」の二文字だけで調べてみる必要性を想いつきました。そうしたところやっと、“思いがけない時である・こと(さま)。予定外。不意。”(添付5)、“偶然の”(添付6)という解説に遭遇でき、これを要約すると、“常時のことでない”と読み解けばいいのだろうという結論を見出して納得しました。
この調査の過程で、面白いものを2件発見しましたので、ご紹介します;
前述しましたように、中国語では、「不時着」のことは、「_急降落」と表現されますが、その発音、「j i n j i j i a n g l u o」(添付3) は、“人事ジャングル王”のように聞こえ、それはまるで、ジャングルに墜落した航空機を探す探査隊の、“人事をつくして天明を待つ”の心境のようにも響きました。
もう一つは、先ほどご紹介しました、ごく真面目な、「航空雑用辞典(航空用語辞典)」の中に、「フフフ」という用語も解説されていて、『【フフフ】 : 全日空のボーイング777-200のこと。導入当初、遠目では767と見分けのつきにくい777は、新機材の紹介もかねて、垂直尾翼の『ANA』ロゴの代わりに『777』と書いてあったのだが、いつのまにやら『フフフ』などと呼ばれるようになってしまった。』(添付7)・・というものがありました。
この「7」と「フ」の関係はかわいらしいものですが、欧米人の書く数字の「7」と数字の「1」の類似に悩まされた方は大勢いらっしゃることと思います。
最後に、この度のハドソン川の航空機の不時着のニュースで、昔ワシントンDCのポトマック川に落下した航空機事故で、私たちを感動させたポトマック川の英雄のことを想い起こしました。やはり1月の厳寒の日、1982年1月13日に氷の張ったポトマック川に墜落した航空機事故でした(添付8)。
当時、私はワシントンDCに関係する仕事をしていた(日本でですが)最中の事故でしたので、目を皿のようにしてニュースを追いかけました。そういった中で、“女性に2度も命綱を譲った男性が、救助ヘリが3度目に戻ってきた時には、既に力尽き水面下に沈み二度と姿を見せなかった・・・男性は46歳の銀行監査官アーランド・ウィリアムス (Arland D. Williams Jr.) であった”(添付8)・・という事実をテレビでも目のあたりにしたことが今でも忘れられません。
ポトマック川の英雄です。
2009年1月17日(土)
MM
添付1
三省堂 デイリーコンサイス国語辞典三省堂「不時着」
航空機が事故などのため予定外の所に着陸すること。
添付2
英辞郎 検索文字列「不時着」
crash landing(飛行機の) // emergency landing // forced down // forced landing(飛行機の)
不時着させる
【他動】
crash-land
不時着する
be ditched // make a crash landing // make an emergency landing
【自動】
crash-land
force-land
添付3
デイリーコンサイス日中辞典 (三省堂)「不時着」
ふじちゃく【不時着-する】
_急降落 j i n j i j i a n g l u o
添付4
航空雑用辞典(航空用語辞典)や行
【よぼうちゃくりく】[予防着陸]
(1)ヘリコプターが、事故を避けるために適当な空き地などに着陸すること。機体の故障とか、天候の急変とか、理由はいろいろである。緊急着陸では聞こえが悪いので『予防着陸』と称しているようだ。ヘリコプターはどこでも着陸できるけど、着陸していいのはヘリポート(飛行場を含む)だけ。但し、墜落などの重大事故を避けるための緊急着陸ならば別である。ヘリポートを探すなんて悠長なことをしている暇があったら、とにかく降りられるところに降りて、最悪の事態だけは回避しなければ…。
(2)軍用機の緊急着陸を、米軍や自衛隊の広報は予防着陸と説明する。固定翼機の場合は、ちゃんと飛行場に降りる。それ以外の場所に降りた場合はただの『不時着』であり、天と地ほども意味が違うのだが、一部の政治団体やマスコミが、こうしたトラブルにつけ込んで、過剰な反応を演出するのは言うまでもない。
添付5
三省堂「大辞林」「不時」
(名・形動)
[文]ナリ
思いがけない時である・こと(さま)。予定外。不意。
・ —の出費
・ —の客
・ —着
・ —な荷物を背負はされたやうな心持もするが〔出典: 新世帯(秋声)〕
添付6
「
ふじ 不時」goo辞書
ふじ 不時
・〜の unexpected; 《偶然の》accidental.
・〜に備える provide against emergency.
添付7
「
航空雑用辞典(航空用語辞典)は行」
【フフフ】《F》
全日空のボーイング777-200のこと。導入当初、遠目では767と見分けのつきにくい777は、新機材の紹介もかねて、垂直尾翼の『ANA』ロゴの代わりに『777』と書いてあったのだが、いつのまにやら『フフフ』などと呼ばれるようになってしまった。そのせいかどうかは知らないが、最近になって垂直尾翼の『フフフ』…じゃない!『777』は『ANA』に塗り替えられてしまった。 最近になって判明したのだがこの『フフフ』は、777導入当時全日空商事が出していた風船ヒコーキが起源らしい。機首に顔が描いてあってにこにこ笑っていて、垂直尾翼にはどう見ても『777』ではなく『フフフ』と書いてあった。
添付8
「エア・フロリダ90便墜落事故」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
エア・フロリダ90便墜落事故とは、1982年1月13日16時1分(東部標準時)ごろ、ワシントン・ナショナル空港(当時、現在は改称してロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港)を激しい吹雪のなか離陸したエア・フロリダ90便(ボーイング737-222、機体記号:N62AF)が、離陸直後に氷結したポトマック川に掛かる橋梁に墜落・激突した航空事故である。乗員乗客79人の内74人、橋梁上の自動車の中にいた4人の合わせて78人が死亡した。客室乗務員1人と乗客4人が救助された。
墜落したエアフロリダ90便の尾翼部分
また、水没しなかった尾翼部分にしがみついた生存者の救助を多くの人々が見守る映像は大きな衝撃をあたえた。 なお、この事故をきっかけにエア・フロリダの経営は悪化し、2年後には倒産してしまっている。
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原因
国家運輸安全委員会 (NTSB) は直接の原因として下記の点を指摘した。
クルーはエンジン防氷装置 (Anti-Ice) を OFF にしていたこと。
これによりエンジン圧力比 (EPR) 測定のための圧縮機入り口センサー開口部が氷雪によって閉塞し、この結果コックピットに誤った EPR を表示(事故後の試験では実際の EPR は 1.70 程度だったと推察されている)することになった。
翼に雪や氷が付着した状態で離陸を開始したこと。
除氷作業終了から管制塔の離陸許可までに時間を要し、この間に再び機体に雪が降り積もってしまった(離陸待機中の後続機の機長はそのクルーに対して、「見ろよ、あの飛行機、ごちゃごちゃ積んだまま行くぜ!」と発言している)。これに加えて、当該 737 型機は主翼前縁部に僅かでも氷雪付着があると離陸時に急激な機首上げを生じるという機種固有の既知の特性を持っていた。
離陸滑走の早い時期に異常に気付いたが、離陸を中止しなかったこと。
副操縦士はエンジン計器の指示に何度も異常を訴えたが、機長はそれを無視するか、または「問題なし」と応じた。
また、離陸直後にスティックシェーカーが作動した際に、エンジン出力を「全開」としていたなら、墜落は免れただろうと結論している。
生存者の救出
墜落現場となったArland D. Williams Jr.記念橋事故の衝撃があまりにもひどかったため生存者がいないと思われていたが、割れた氷の上に6名の生存者がしがみ付いていた。しかし現場は同時刻に偶然発生した交通事故により緊急車両が近づけないほどの交通渋滞が発生していたため、レスキュー隊の到着が遅れていた。事故から20分後に国立公園管理警察の救助ヘリコプターが駆けつけた時に、男性の乗客に命綱を渡したが、彼は2度にわたって近くにいた女性に譲った。また2度目の救助の時に女性が命綱から手を離してしまい氷の上に取り残されていた時、群衆の中から2名の男性が飛び込み、そのうちの一人のアメリカ連邦議会予算委員会職員の男性が女性を救助したことが評判になった。
一方、女性に2度も命綱を譲った男性であるが、救助ヘリが3度目に戻ってきた時には、既に力尽き水面下に沈み二度と姿を見せなかった。結果的に生存者の救助を映した映像(腕が映っている)が生前最期の映像となった。この男性であるが後に引き上げられ事故で唯一の水死者(他の犠牲者は衝撃で死亡していた)であったと判明した。男性は46歳の銀行監査官アーランド・ウィリアムス (Arland D. Williams Jr.) であった。彼はアメリカ政府から救助ヘリの乗員2人とともに自由勲章が授与され、その後、彼の偉業をたたえ事故現場となった橋が "Rochambeau Bridge"(ジャン=バティスト・ド・ロシャンボーにちなんでいた) から "Arland D. Williams Jr. Memorial Bridge" と改名された。また、他にも彼を記念して命名された施設がいくつかあり、彼の郷里のイリノイ州には2003年に彼の名が付いた小学校が新設されたという。。
添付9
「
「ハドソン川の英雄」機長に称賛の声 NY不時着」
2009年1月17日0時57分
【ニューヨーク=真鍋弘樹】世界有数の大都市上空で、155人を乗せた旅客機が飛行不能に——。そんな絶体絶命の状況で、57歳のベテラン機長はただ1人の犠牲者も出さなかった。ニューヨークで15日に発生したUSエアウェイズ機の不時着事故で、「ハドソン川の英雄」という賛辞が機長に贈られている。
同航空のエアバスA320型機を操縦していたのは、チェスリー・サレンバーガー機長。70年代、米空軍でF4戦闘機を操縦し、同航空に転職後も29年間、現役を続けてきた。過去、米運輸安全委員会の航空事故調査に携わり、米民間操縦士組合で事故調査官も務めたベテランパイロットだ。
同機と管制官との交信を聞いた関係者は、機長の応答が「パニックやヒステリーに陥ることなく、冷静沈着で、プロ意識に徹していた」と米メディアに語った。ニュージャージー州の小規模空港に着陸するかどうか、管制官と相談した以外、余計なことは話さず、操縦に集中しているようだったという。
ハドソン川は、すぐ脇にマンハッタン島の高層ビルが壁のようにそびえ、観光船などの水上交通も盛ん。現場水域の10キロ上流には、ジョージワシントン橋もかかっており、それらの障害物をすり抜けて無事、着水を成功させた。
多くの目撃者が「着陸するように静かに水面に降りた」と証言している。推力を失った旅客機で滑空しながら、姿勢を水平に保ち、速度を落として安全に着水した高度な技術に、航空関係者は称賛を惜しまない。同機長はグライダーの操縦資格も持っていたという。
「あの機長は男の中の男だ。事故後、フェリーターミナルに座り、何ごとも起きなかったかのように制帽をかぶってコーヒーをすすっていた」。救出後の機長を近くで見た警察官は、そう米メディアに語った。
死者・行方不明者がゼロだったことが明らかになると、米メディアはサレンバーガー機長を英雄視し、インターネット上では、ファンクラブのページまで作られた。
ニューヨークのブルームバーグ市長は記者会見で同機長と話したことを明かし、「乗客が全員、脱出したかどうか確認するため、彼は2度、機内をくまなく歩き、最後に避難した」と称賛。「もっとも重要なことは、操縦士が素晴らしい働きをして、すべての乗客が安全に脱出したことだ」と締めくくった。
妻のロリーさんは事故直後、米メディアに「まだ私の体は震えているけれど、夫は大丈夫だと思う。彼は完璧(かんぺき)なパイロットです」と夫への信頼を語った。
15日、ハドソン川に不時着したUSエアウェイズ機から救出される乗客
=ロイター
ハドソン川に不時着したUSエアウェイズ機のサレンバーガー機長
=ロイター