2006年、女優でムーミン役声優の岸田今日子さん(享年76歳)が帰らぬ人となった病気・脳腫瘍について、
「脳腫瘍」/「患者を生きる」(朝日新聞2013.12.23)の記事と「家庭の医学」の記事等を収集して、脳腫瘍の予備知識としてまとめた。上記リンク部をクリックすると2006年当時50歳女性の詳細記事(脳腫瘍[神経膠腫]の発覚から診断・手術・再手術・後遺症)へ移動します。但し、「朝日新聞デジタル」版の購読が必要です。
脳腫瘍とは、頭蓋骨の内側にある脳や膜などで異常に増殖した細胞の塊といえる。脳腫瘍には脳原発性腫瘍と肺などから転移してきた転移性腫瘍がある。悪性の脳腫瘍は、体の別の部分で発生した癌が脳へ転移することが多いという。
肺や大腸など別の臓器から転移したものを除き、年間の発症は人口10万人あたり10~15人と推計される。
成人に多いのは脳の表面を覆う膜にできる髄膜腫と脳の内部にできる神経膠腫。この二つで半数を超える。さらに、ホルモンの司令塔である下垂体にできる下垂体腺腫、内耳神経などにできる神経鞘腫が続く。他に、若年性の「小児脳腫瘍」もある。
「脳腫瘍は、朝の頭痛が続くのが特徴の一つ。吐き気や手足が動かしにくいなどの症状があれば、すぐに受診して欲しい」と言われる。
腫瘍が大きくなると、頭蓋骨内の圧力が高まり、頭痛や嘔吐などが起こる。さらに、言語や運動をつかさどる脳・神経の領域に腫瘍ができれば、話せなくなったり運動まひが起こったりする。初発時にけいれんが起こる人も少なくない。
治療は手術や放射線、抗がん剤を組み合わせることが多い。脳の外側にできる
髄膜腫や下垂体腺腫、神経鞘腫は良性が多い。正常な組織との境界が明確で摘出しやすいため、完治が期待できる。
神経膠腫(グリオーマ)は取り除くのが難しい。神経細胞を保護している神経膠細胞(グリア細胞)から発生すると考えられ、腫瘍が周りの正常な神経や血管を巻き込み、しみこむように増殖するためだ。
それでも、摘出率が高いほど生存率は高くなる傾向がある。「まひなどが起こらないように脳の機能を守りながら、できる限り摘出をめざす」と埼玉医大脳神経外科の西川亮教授。腫瘍だけを薬で光らせたり、言語や運動神経の反応を確認したりしながら慎重に取り除く。
取った組織を調べて確定診断し、治療方針を決める。腫瘍の種類や形によって放射線の照射範囲や量を調整し、正常な組織の損傷を抑える。残った腫瘍をやっつけるため、抗がん剤を追加することもある。
神経膠腫は再発すると、悪性度が高くなる可能性がある。定期的に画像検査などを行う。
脳ドックなどで早期に見つかることも増えたが、いつもの頭痛やかぜだと思い、かなり進行してしまうことも少なくない。
高知大脳神経外科の上羽哲也教授は「
朝の頭痛が続くのが特徴の一つ。吐き気や手足が動かしにくいなどの症状があれば、すぐに受診して欲しい」と話す。
「『ミステリアス女優』岸田今日子さんが死去…76歳、脳腫瘍」[2006年12月21日]サンケイスポーツによれば、
岸田今日子さんが体調を崩したのは2006年1月下旬。幾度となく激しい頭痛に襲われるようになり、都内の病院で精密検査を受けたところ、脳腫瘍が見つかった。
手術を受けず放射能治療での回復をめざし、すぐに入院。一度は快方に向かい3月に退院して自宅静養に努めていたが、4月に再び体調を崩して入院。その後は退院することなく、帰らぬ人となった。最期は長女の西條まゆさん(38)ら親族に看取られ、静かに息を引き取ったという。
まゆさんは、岸田さんが所属していた演劇集団「円」の代表で、11月16日に慢性閉塞性肺疾患(COPD)で他界した故仲谷昇さんとの一人娘。元夫が他界した1カ月後に、岸田さんもあとを追うように天国へ旅立った。
頭蓋内に発生する腫瘍は恐るべし。そこで、「家庭の医学」などから脳腫瘍に関する情報を入手した。
脳腫瘍には、○
脳下垂体にできる腫瘍(下垂体腺腫)は、前葉のホルモンを出す細胞からできる場合が多い。○
神経膠腫は、脳のなかの神経細胞とこの神経細胞に栄養を送ったり神経細胞から不要な老廃物をとりのぞいたりする神経膠細胞からできると考えられる腫瘍。○
髄膜腫は脳をとりまく膜(髄膜)からできる腫瘍。○視神経、動眼神経、三叉神経、顔面神経、聴神経など12の脳神経をつつむ鞘(さや)からできる腫瘍を
神経鞘腫等といわれる。
「
悪性の脳腫瘍は、体の別の部分で発生した癌が脳へ転移することが最も多く、転移は1カ所のことも複数の異なる部位のこともあります。乳癌、肺癌、消化器癌、悪性黒色腫、白血病、リンパ腫など、多くの癌が脳へ転移します。脳のリンパ腫は、エイズ患者に多く発生します。理由は不明ですが、正常な免疫システムをもつ人にも脳リンパ腫が増えています。
悪性の原発性脳腫瘍のうち最も多いのが、神経膠腫です。」(「
脳腫瘍」より)
と見て来ると、悪性の脳腫瘍を予防するには、体の別の部分で発生するがんを予防することも重要になってくる。他に、若年性の「
小児脳腫瘍」もあるので注意する必要がある。
<脳腫瘍>
脳腫瘍は頭蓋内に発生する腫瘍。ほかの部位の腫瘍との大きな違いは、かたい頭蓋骨に囲まれていることです。このために良性腫瘍であっても生命の危険を生じることがあり、また手術も容易ではない。脳腫瘍には脳原発性腫瘍と肺などから転移してきた転移性腫瘍がある。腫瘍が出来る部位によって、「
下垂体腫瘍」、テント上腫瘍(脳の上部に発生する腫瘍で
神経膠腫、
髄膜腫、第3脳室の上衣腫など。基本的に成人に多い。)、テント下腫瘍(脳の下部に発生する腫瘍で髄芽腫、上衣腫、星細胞腫、
神経鞘腫など。基本的に子供に多い。)などの名もある。
[
症状]
2~3ヶ月の経過で徐々に症状が悪化していくことが特徴。
特に早朝の頭痛で気づかれることもまれではないそうだ。頭痛に伴って嘔気、嘔吐も徐々に悪化していく。脳の局所症状としては視覚異常、視力低下、片麻痺、難聴、歩行失調が徐々にあらわれ、進行していく。末期には意識障害が始まる。経過中にけいれん発作を示すこともしばしばあり、またけいれん発作で発症することもある。下垂体腫瘍では巨人症、末端肥大症、手根管症候群をみます。
脳腫瘍の特徴は、症状が常に進行する。つまり、一度あらわれた症状は増悪することはあっても自然に軽快消失することはないという。
脳は頭蓋骨に囲まれているために、良性腫瘍であってもそれが大きくなるにつれて脳内の圧が上昇する。頭蓋骨は頚髄に向かう大後頭孔のみが外に開いているため、脳圧が上昇するにつれて脳が下へ押し下げられていき、最終的には脳幹が骨に押しつぶされて瞳孔が散大し、呼吸が停止するという。
脳神経に発生する腫瘍は、症状が出やすいので、早く診断されることが多いものです。特に聴神経に発生する
聴神経腫瘍(神経鞘腫)は片側の難聴とめまいで始まり、徐々に進行する。ただし、3分の1の例で突発性難聴の症状で発症することもある。
[
診断]
CTやMRIが必須です。病巣が確認できたら血管造影を行い、どの血管が腫瘍を養っているかを調べる。これは手術するにあたって、大切な情報になる。脳波や各種の内分泌検査が必要になることもある。
[
治療]
原則として手術をします。但し、悪性腫瘍が脳内に多数転移している場合は放射線治療や化学療法が中心になる。一方で下垂体腫瘍ではプロモクリプチンの内服だけで軽快することもあるという。特に血管奇形や血管に富んだ腫瘍ではそのまま手術を行うと大出血を起こすので、エチルアルコールなどを注入したり、特殊なオイルを注入して動脈を閉塞させて治療することもあります。近年はガンマナイフという特殊な放射線療法も使われるようになったという。ガンマナイフはガンマ線が一点に焦点を結ぶようにつくられている放射線照射機器です。このため周囲の非腫瘍組織に照射による損傷が少ないのが特徴です。
下垂体腫瘍などで腫瘍が小さい場合に適応となります。
転移性腫瘍では、多臓器に広範な転移がある場合は手術の適応にならないが、脳腫瘍それ自体で生命の危険があり、手術で2~3カ月は延命が期待できる場合は手術を行います。
良性腫瘍では可能な限り正常の組織を残しつつ、摘出します。
悪性腫瘍では浸潤が広範囲なことがあり、神経症状を悪化させない範囲で手術し、残った部分に対しては化学療法や放射線療法を加えます。
放射線療法は、悪性腫瘍の治療上でもっとも大切です。転移性脳腫瘍では全脳に対して照射します。脳原発の悪性リンパ腫は化学療法のみで十分な治療が可能で、経過も良好です。